18. Ni-Al二元系合金の熱処理最適化ワークフロー¶
18.1. 概要¶
ニッケル基超合金について、時効熱処理条件から、γ/γ’2相組織の時間発展を計算し、その結果に基づいて、高温強度を予測する。
ニッケル基超合金のモデル材料としてNi-Al二元系を対象とする。組織の時間発展はフェーズフィールド法で計算する。 得られた二次元組織情報から、γ’のサイズや体積率、γのAl濃度などの統計量を計算し、これに基づいてγ’による析出強化や固溶強化を考慮した経験式から高温強度やクリープ特性等を予測する。
ワークフロー登録例は 図 199 になる。
図 199 NiAl熱処理シミュレーション(等温時効+連続冷却または加熱、個数指定、Fast2DVersion2、質量分率、2μmSQ、初期場ランダム、リスタート対応版、Dupin)¶
ツールの概要は以下の通りである。
初期場ファイル作成
熱処理シミュレーションを実行するための初期状態を作成する。
NiーAlのγ'析出組織形成
Phase Field式を使用したNi-Al二元系の組織を予測する。
Ni属性特徴量抽出
組織予測結果からγ/γ’の平均サイズ、濃度などの統計量を導き出す。
超合金特性予測
抽出された特徴量からテスト条件による強度を予測する。
組織を予測する実サイズ、初期場作成の有無、初期場の種類などによりいくつかのパターンのツールを登録している。
注意
本ワークフローはNi属性特徴量抽出ツールで複数のシミュレーション結果が必要となるため、2つ以上のシミュレーション結果が生成されるようにパラメータを与える必要がある。
18.2. ツールの説明¶
18.2.1. 初期場ファイル作成モジュール¶
γ’(ガンマプライム相)の熱処理シミュレーションを実行するための初期状態を作成する。2種類の状態(粗大化初期、ランダム)とサイズ(2μm x 2μm、10μm x 10μm)の組み合わせにより以下の3タイプのツールを登録している( 表 17 )。 ツールの例は 図 200 になる。
No |
状態 |
サイズ |
---|---|---|
1 |
粗大化初期 |
10μm x 10μm |
2 |
ランダム |
10μm x 10μm |
3 |
ランダム |
2μm x 2μm |
図 200 (例)初期場ファイル作成モジュール¶
18.2.2. NiーAlのγ’析出組織形成¶
γ’(ガンマプライム相)の熱処理シミュレーションを行う。サイズ、リスタート対応有無、Dupin状態図に準拠するかどうかの組み合わせにより以下の8タイプのツールを登録している( 表 18 )。
No |
サイズ |
リスタート |
Dupin状態図 |
---|---|---|---|
1 |
2μm x 2μm |
対応あり |
準拠 |
2 |
2μm x 2μm |
対応あり |
(別状態図に準拠) |
3 |
10μm x 10μm |
対応あり |
準拠 |
4 |
10μm x 10μm |
対応あり |
(別状態図に準拠) |
5 |
2μm x 2μm |
(対応なし) |
準拠 |
6 |
2μm x 2μm |
(対応なし) |
(別状態図に準拠) |
7 |
(10μm x 10μm) |
(対応なし) |
準拠 |
8 |
(10μm x 10μm) |
(対応なし) |
(別状態図に準拠) |
サイズ
シミュレートするサイズは2μm x 2μmか10μm x 10μmのどちらかである。
ツール名に「サイズ」が明記されていないものは10μm x 10μmである。
リスタート対応
リスタート対応なしの場合、ツール内でランダム状態の初期場ファイルを作成する。Ni熱処理データ(実行結果ファイル)を入力する必要がない。
リスタート対応ありの場合、初期場ファイル作成モジュール、または、NiーAlのγ’析出組織形成で出力されたNi熱処理データを入力する必要がある。
ツール名に「リスタート対応」と明記されていないものはリスタート対応なしである。
Dupin状態図
ツール名に「Dupin状態図」が明記されているものはDupin状態図に準拠した熱力学定数を使用している。
ツール名に「Dupin状態図」が明記されていないものは別の状態図に準拠した熱力学定数を使用している。
ツール名に明記されていない場合、 表 18 の表記に()を付加した。
ツールの例は 図 201 になる。
図 201 (例)NiーAlのγ'析出組織形成¶
リスタート対応有無により必要な入力ファイルが異なる。
注意
冷却速度、開始温度および終了温度から冷却または加熱のシミュレーションの終了時間が計算される。これに等温保持時間がプラスされ全体のシミュレーション時間が決まる。
注意
冷却または加熱のシミュレーションは等温保持時間のシミュレーションの後に計算される。
18.2.3. Ni属性特徴量抽出¶
NiーAlのγ’析出組織形成の実行結果(VTKファイル)の複数枚から画像処理を行い、γおよびγ'の体積率、粒子径、Al濃度などの平均統計量を出力する( 図 202 )。 スケールに関しては、計算領域サイズで指定されているサイズがNiーAlのγ’析出組織形成での熱処理シミュレーションから出力されるサイズのスケールを表すと仮定している。
図 202 Ni属性特徴量抽出¶
18.2.4. 超合金特性予測¶
特徴量抽出で得られた各相の統計量(体積率、粒子径、Al濃度など)、テスト条件(温度等)から強度を予測する( 図 203 )。
図 203 超合金特性予測¶

図 204 強度予測結果出力例¶
18.3. ワークフロー説明¶
Ni基合金の最適な熱処理の手法を得るためのデータを蓄積するため、様々な熱処理の結果を得られるように、
1.初期場作成→シミュレーション→シミュレーション結果→解析
2.シミュレーション結果→シミュレーション→シミュレーション結果→解析
のようにツールを組み合わせて実行することが可能である。 本説明ではこの基本的な組み合わせのワークフローについて取り上げる。
18.3.1. 初期場作成から開始するワークフロー¶
このワークフローは、
初期場作成→熱処理シミュレーション→特徴量抽出→強度予測
の順に実行するものである( 図 205 )。
図 205 初期場作成から開始するワークフロー登録例¶
ワークフローの概要¶
このワークフローは
初期場ファイル作成モジュール
シミュレーション回数指定
リスタート対応版NiーAlのγ’析出組織形成
Ni熱処理データ指定
Fast2D/Version2版
質量分率指定
Ni属性特徴量抽出
超合金特性予測
の4つのツールから構成されるワークフローである。 ランダムな初期場を利用して熱処理シミュレーションを実行し、強度予測を行う。
サンプル入出力ファイル¶
サンプル入出力ファイル
ダウンロードはこちら
(html版のみダウンロード可能)
サンプル入出力ファイルと計算結果ファイルダウンロードの違い¶
このワークフローはサンプル入出力ファイルとラン詳細で得られる計算結果ファイルダウンロードではファイル名および拡張子に違いがある。内容は同じものであり、差の一覧を以下 表 19 に示す。
注釈
ディレクトリ名は長いのでW000110000000435などは省略している。
No |
ディレクトリ名 |
ダウンロード |
サンプル |
---|---|---|---|
1 |
初期場ファイル作成モジュール |
Ni熱処理データ |
Ni熱処理データ.zip |
2 |
NiーAlのγ析出組織形成 |
計算領域のサイズ |
計算領域のサイズ.txt |
3 |
濃度場画像配置場所 |
濃度場画像配置場所.txt |
|
4 |
オーダーパラメータ画像配置場所 |
オーダーパラメータ画像配置場所.txt |
|
5 |
Ni熱処理計算データ |
Ni熱処理計算データ.zip |
|
6 |
超合金特性予測 |
耐力 |
耐力.txt |
7 |
引張強度 |
引張強度.txt |
|
8 |
output_ni.csv |
強度予測出力ファイル.txt |
|
9 |
Ni属性特徴量抽出 |
All Results.csv |
Ni属性抽出全データ.csv |
10 |
Partial Results.csv |
Ni属性抽出Al特徴量データ.txt |
|
11 |
Gamma_固溶濃度_質量分率_Al_平均_無次元 |
Gamma_固溶濃度_質量分率_Al_平均_無次元.txt |
|
12 |
GammaPrime_二次_粒子径_平均 |
GammaPrime_二次_粒子径_平均.txt |
|
13 |
GammaPrime_二次_体積率_平均 |
GammaPrime_二次_体積率_平均.txt |
|
14 |
GammaPrime_二次_Al固溶濃度_平均 |
GammaPrime_二次_Al固溶濃度_平均.txt |
|
15 |
StackGammaPrimePhaseChem.tif |
StackGammaPrimePhaseChem図.tif |
|
16 |
StackGammaPhaseChem.tif |
StackGammaPhaseChem図.tif |
|
17 |
StackOriginalPhase.tif |
StackOriginalPhase図.tif |
|
18 |
StackOriginalChem.tif |
StackOriginalChem図.tif |
|
19 |
StackThresholdedPhase.tif |
StackThresholdedPhase図.tif |
|
20 |
合金組成_質量分率_Al_無次元 |
合金組成_質量分率_Al_無次元.txt |
18.3.2. リスタート版ワークフロー¶
このワークフローは、実行済の熱処理シミュレーションの結果を入力とし、
熱処理シミュレーション結果→熱処理シミュレーション→特徴量抽出→強度予測
の順に実行するものである( 図 206 )。
Ni熱処理データのポート名で表現される、初期場作成から開始するワークフローの結果や本ワークフローの結果を入力とすることで、次々に熱処理を追加していくことができ、複雑な熱処理に対する計算ができるようになる。
図 206 リスタート版ワークフロー登録例¶
ワークフローの概要¶
このワークフローは
リスタート対応版NiーAlのγ’析出組織形成
Ni熱処理データ指定
Fast2D/Version2版
質量分率指定
Ni属性特徴量抽出
超合金特性予測
の3つのツールから構成されるワークフローである。 実行済の計算結果を入力として更なる熱処理シミュレーションを実行し、強度予測を行う。
18.3.3. 熱処理シミュレーションから開始するワークフロー¶
このワークフローは、初期場作成機能付き熱処理シミュレーションから始まる。初期場作成が中に繰り込まれているので、ユーザーは特に初期場作成について気にする必要はないという利点があるが、複数のワークフローを組み合わせた複雑な熱処理に対応することはできない。
初期場を作成し、熱処理シミュレーション→特徴量抽出→強度予測
の順に実行するものである( 図 207 )。
図 207 熱処理シミュレーションから開始するワークフロー登録例¶
ワークフローの概要¶
このワークフローは
初期場作成機能付きNiーAlのγ’析出組織形成
シミュレーション回数指定
Fast2D/Version2版
質量分率指定
Ni属性特徴量抽出
超合金特性予測
の3つのツールから構成されるワークフローである。 ランダム状態の初期場を作成して熱処理シミュレーションを実行し、強度予測を行う。
18.4. ワークフローの実行¶
ワークフローの選択
MIntシステムにログイン後、「材料設計ワークフローシステム」をクリックし、ワークフロー一覧画面で対象のワークフロー名をクリックして選択する。1ページ目に表示されない場合は、適宜検索等で絞り込みなどを行って表示させる( 図 208 )。

図 208 ワークフローの選択¶
実行選択
ワークフロー実行ボタン(赤枠)をクリックする。 この時、該当ワークフローのステータスが「公開中」であることを確認する( 図 209 )。

図 209 実行の選択¶
パラメータ入力と実行
入力ファイルをアップロードする。赤枠の中、参照ボタン側を選択し、参照ボタンをクリックして対応するファイルを指定していく( 図 210 )。最後に実行ボタンをクリックする( 図 211 )。

図 210 パラメータ入力¶

図 211 実行¶
18.5. 計算結果の確認¶
ダウンロード
計算が終了すると、計算結果をダウンロードすることが可能になる。「ラン一覧」画面から計算が終了したランに移動し、「ダウンロード」ボタンをクリックすると( 図 212 )、計算結果ファイルのダウンロード画面に遷移する。

図 212 実行¶
ダウンロードしたファイルはZIP形式の圧縮ファイルである。WindowsPCなどでは解凍ツールで解凍する。解凍するとワークフローIDが名前のフォルダが作成される。構造は「ワークフローID/input」ディレクトリに入力に使用したファイルが、「ワークフローID_ツール名」ディレクトリに出力ポートにセットされた計算結果が格納される。
注意
実行終了後、データをダウンロードできるのは実行ユーザーのみとなっている。他のユーザーにデータを公開する(ダウンロード可能とする)場合は、データのアクセス権限を変更する必要がある。「材料設計ワークフローシステム 利用者マニュアル」の「データの管理 - アクセス権限を設定する」を参照のこと。
計算結果ファイルのダウンロード画面のダウンロード手順は、「材料設計ワークフローシステム 利用者マニュアル」の「計算結果ファイルをダウンロードする」を参照のこと。
ツール名が長いため、WindowsPCなどではダウンロードファイルの格納先ディレクトリ名が長い場合、圧縮ファイルを解凍できない、または、解凍後に出力されたファイル名を編集できない可能性がある。
ダウンロードファイル(out.zip)の解凍例は以下の通りとなる。ダウンロードファイルの格納先ディレクトリ名(解凍例の"C:UsersxxxxxDownloads"の部分)が長くなりすぎないこと。
C:\Users\xxxxx\Downloads\out\W000110000000435\W000110000000435_NiーAlのγ析出組織形成(連続冷却+等温時効、Fast2DVersion2、質量分率、実施回数、サイズ2μmx2μm版、リスタート対応、Dupin状態図)_01\オーダーパラメータ画像群
注意
Windows10の場合、ディレクトリとファイルの長さの最大値は259文字となる。
画像の確認
このワークフローには確認できる結果画像は無いが、いくつかの計算結果として数値または表を確認できる。以下に例を示す。
ラン詳細画面の実行状況ボタンをクリックする。 参照したいツールを選択し、メニューから電卓アイコンをクリックする(図 213 )。

図 213 計算結果ダイアログの表示¶
計算結果ダイアログの出力ポートを選択する(図 214 )。

図 214 計算結果の表示¶
18.6. (参考)各ツールの入力パラメータファイルのフォーマット¶
ツール実行時に、入力ポートで指定された値とデフォルト値を元にパラメータファイルを生成している。参考情報として以下に示す。
初期場ファイル作成モジュール用パラメータファイル
内容は前半がパラメータ本体、後半はパラメータの説明である。初期場ファイル作成では基本的に以下のファイルを使用する。
500
0.004
0.0
1143.0
10.0
1143.0
0.0
1.0e-06
0.191163
3.5238e-10
4.0
1.0e-15
1.0e-14
0.02
0.02
0.02
0.0
0.0
0.0
2.508e+11
1.500e+11
1.235e+11
1.0
1.0
200.0
1.0e-04
2.60e+05
--上記データの内容------------------------------------------------------
//---- プロセス情報の設定 ---------------------------------
//データ保存間隔
Nstep=1000
//時間きざみ(無次元)
delt0=0.004
//開始時間(s)
time_strat[1]=0.0;
//開始温度(K)
T1[1]=1143.0;
//等温保持時間(s)
isoage1[1]=10.0;
//連続冷却(加熱)終了温度(K)
T2[1]=1143.0;
//冷却(加熱)速度(K/s)[冷却の場合を負とする、またゼロを入れると前の等温時効までで終了]
dT12dt[1]=0.0;
//計算領域[m]
al=1000.*1.0E-09; //計算領域をal[m]にセット
//---- 合金情報の設定 ---------------------------------
//合金組成(原子分率)
c0=0.191163
//Ni(fcc)の格子定数(m)
a1_c=3.5238e-10;
//単位胞内の原子数
atom_n=4.;
//勾配エネルギー係数(Jm^2/mol)
kapa_s1=1.0e-15;
kapa_c=1.0e-14;
//c場のeigenひずみ
eta0c_11=0.02;
eta0c_22=0.02;
eta0c_33=0.02;
eta0c_12=0.0;
eta0c_13=0.0;
eta0c_23=0.0;
//Niの弾性定数(Pa)
c11=2.508e+11;
c12=1.500e+11;
c44=1.235e+11;
//拡散の易動度とフェーズフィールドの緩和係数
x_cmob1a=1.;
x_cmob1c=1.;
x_smob1=200.;
//拡散係数の頻度因子(m^2/s)と活性化エネルギー(J/mol)
D0=1.0e-04;
Q0=2.60e+05;
NiーAlのγ’析出組織形成用Ni熱処理計算データファイル
Linuxで表示したNi熱処理計算データファイル(ZIP形式)の構成内容
VTK以外のファイルは無視される。
Ni熱処理計算データファイルはリスタート対応版のNiーAlのγ’析出組織形成ツールの入力ファイルとして使用可能
$ unzip -l Ni熱処理計算データ
Archive: Ni熱処理計算データ
Length Date Time Name
--------- ---------- ----- ----
193 11-17-2021 15:19 0/initial_setting.dat
15064824 11-18-2021 08:05 0/final_field.vtk
193 11-17-2021 15:19 1/initial_setting.dat
15032704 11-18-2021 07:56 1/final_field.vtk
193 11-17-2021 15:19 2/initial_setting.dat
15037852 11-18-2021 08:13 2/final_field.vtk
193 11-17-2021 15:19 3/initial_setting.dat
15023102 11-18-2021 08:15 3/final_field.vtk
--------- -------
xxxxxxxx 8 files
Ni属性特徴量抽出
このツールは熱処理シミュレーションの計算結果を入力とする。ツール実行時のパラメータファイル生成は無い。
超合金特性予測
入力ポートで指定された値とNi属性特徴量抽出の出力値を元にパラメータファイルを生成する。パラメータファイル例は以下の通り。
1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30
alloy,testtemp,appst,Ni,Al,Ni,Al,fg1,dg1,fg2,dg2,fg3,dg3,Tml,poi,bur,apb,Wel,apm,tay,pss,pg3,pg2,pg1,pgb,k1,k2,u1,u2,qac
name,K,Mpa,wt%,wt%,wt%,wt%,-,m,-,m,-,m,K,-,m,Jm-2,Pam,-,-,-,-,-,-,-,-,-,-,-,kJ/mol
4M3-lb,100,630,49.335,2.35,35.40032498,0.403,1,0.00000261,0,8.77E-08,0,1.15E-08,1637,0.3,2.53E-10,0.1,0.5,0.72,3.1,1,1,1,1,1,105.53,8.471,0.184,0.0993,330